金井 宏彰社長に聞く、過去・今・未来の金井重要工業とは
金井 宏彰社長に聞く、
過去・今・未来の金井重要工業とは
金井重要工業株式会社 代表取締役社長 金井 宏彰
チャプター
■ 創業130周年について
―2024年に創業130周年を迎えました。
宏彰社長:歴史の重みを感じています。前社長が兄(宏実・現会長)なのですが、兄弟で一世代と考えているので、4世代目が我々です。紡績機械部品で創業し、不織布など素材メーカーとしての力も付け、先代たちから培ってきた技術力を強みにさまざまな分野に展開してきました。その一方、私が生まれる前の出来事を含め、本社新工場の全焼やグループ企業の事業撤退、紡績産業の本場である英国企業の買収と閉鎖など多くの失敗も経験しました。
それらを乗り越えて今日があるのは「社会やステークホルダーに貢献する」という企業としての本質、軸がこの130年間ブレなかったからだと考えています。創業から掲げる社訓「世の中のわが身につける『が』と『こそ』を人につければすべて円満」という言葉は、相手「こそが」主役だと考えて動けばすべてうまくいく、そんな利他の精神を表しています。
キーワードはニッチ、オンリーワン、付加価値。これからも変えるべきこと、変えてはならないことをしっかりと見極め「小さくてもキラリと光る企業」でありたいと願っています。
■ 金井重要工業の歴史
―創業の1894年といえば、日清戦争の直前です。
宏彰社長:当時、紡績産業は国の成長に貢献し重要視されていましたが、繊維製品の品質に影響する基幹部品の「トラベラ」などは、英国からの輸入頼りでした。そこに目を付けたのが、機械設備の据え付けの仕事をしていた創業者の(金井)熊吉です。見よう見まねで国産のトラベラを造り始めたことが、当社のスタートでした。いわゆる消耗品として交換が必要な部品ですので、長期の需要が見込める点が良かったのだと思います。以降、いろいろな部品を国産化し、現在では繊維機器における保全費の約6割を占める部品が当社の製品です。
トラベラは主力製品という枠を超えて、当社の象徴でもあります。私が子どもの頃、創業家である実家の食卓ではトラベラのマークがあしらわれたお茶碗でご飯を食べていたくらいですから(笑)。「このご飯が食べられるのは、これ(トラベラ)のお陰なのよ」と言われて育ちましたし、先祖代々のお墓の形もトラベラ。思い入れは強いですね。
―第二次世界大戦中の1943年には、現在の社名になりました。
宏彰社長:戦争で輸入が止まったことから当社の製品がなければ糸も服も簡単には作れない状況となり、国から「重要部品を扱っている」と指定され、「金井重要工業」とつけさせてもらいました。自ら名乗ったというよりは、国に言われて名乗った側面が強かったようです。
話は前後しますが、CI(コーポレートアイデンティティー)が叫ばれ始めた30年ほど前、横文字の企業名が増えたことから当社でも社名変更を検討したことがあります。しかし、社員から「新しい取引先に行くときに社名で話が広がる」「レトロで良い」などと反対意見が続出。社員が愛着を持ってくれているというのはうれしいことです。
■ 金井重要工業の現在
―1958年には後にトラベラに並ぶ事業の柱となる「不織布」の製造に乗り出します。
宏彰社長:父でもある3代目社長(宏之)がアメリカの展示会に行った際、不織布でできた洋服を見て衝撃を受けたそうです。実を言えば現在も不織布の服というのは多くないのですが、当時は紡績産業が大きく変化していくという危機感があったのだと思います。
機材を導入し、最初は女性用帯の芯材を造り始めました。不織布を扱うという意味で国内では「先発4社」に数えられるほど早い時期のスタートです。結果的に芯材については撤退することになりましたが、不織布などの素材を造るメーカーになったことが、今では当社の強みとなっています。
―素材メーカーの強みはどういったところにあるのでしょうか。
宏彰社長:製品そのものを造るだけだと、いずれその製品が必要ではなくなった時に転換ができなくなる可能性があります。音楽再生メディアで例えれば、カセットテープやCD。いまやダウンロードが主流で「モノ」そのものが無くなってしまいました。しかし、素材ならば、その時代ごとの製品にアップデートして使ってもらうことができるわけです。
実際に当社の製品は、自動車分野、家電分野、半導体分野と展開し、現在は医療分野にも進出しています。外注するのではなく、自社で技術を培い、全てのことを賄う「自前主義」を貫いてきたからこそ小回りも利き、ここまで来られたのでしょう。一方で、近年は技術力を生かすため、大学など別分野の方々とも連携をさせてもらい「新しいもの」を作るための模索も始めました。
■ 金井重要工業の未来
―「新しいもの」という意味では、2014年に「技術革新室」を新設し、トラベラ、不織布に続く新たな事業の柱を作ろうと動き始めたそうですね。
宏彰社長:大きく分ければ、医療分野と炭素繊維の研究への展開です。特に医療での活用は市場への投入もされ、順調に売上を伸ばしています。代表的な例が、苦節10年かかった医療用の不織布スペーサです。放射線治療に使われる機器なのですが、体内で吸収される素材を使っているため再手術で取り除く必要がなく、患者に対して低侵襲だとして注目を集めています。
当社は「特許」の取得にも力を入れ、素材の知識だけでなく金属加工の技術も持っていますのでゼロから新事業ということでなく、それら今まである技術を別の用途に振り向け発展させることで、さまざまな分野に使っていければと考えています。
―社員の平均年齢が45歳と比較的高齢になり、「採用活動しない採用活動」を掲げた自社採用サイトなども印象的です。
宏彰社長:これまで会社を支えてきてくれた社員は「真面目で誠実」な人間がとても多かったと思います。そんな方向性は変えずに、イノベーションを起こしてくれそうな「とがった人材」も採用していこうと、副社長(宏輔)を中心にいろいろと工夫をしてくれていますね。社風に賛同してくれる中途採用の人材も増えてきています。また、技術の伝承という意味では、動画マニュアルやVRゴーグルの活用、エンゲージメントツールの情報共有等、DX化にも力を入れていきたいと思います。
■ 金井重要工業の経営戦略
―攻めと守りの「バランス経営」を続けてきたと聞きます。経営戦略として大事にされていることをお聞かせください。
宏彰社長:我々は、いわゆる大企業になるつもりはありません。誤解を恐れずに言えば、市場規模さえあれば企業を大きくする方法論はあるけれど、そこは目指さない。ナンバーワンになるよりもオンリーワンの商品をたくさん持つことのほうが難しいし、価値がある。そこを目指しています。
グローバル化の流れに乗り、海外展開もしてきましたが、学んだのは市場規模が大きくなり過ぎると、過度な価格競争が起こり、「モノづくり」ではない世界での戦いになってしまうということです。それは、我々の理念に反します。ニッチだったとしても、面白くて付加価値が高いモノを造り続けていきたいと思っています。
―「不易流行」も掲げ、伝統を重んじながら革新の必要性も説かれています。
宏彰社長:社員には「流行に乗るけれど、流行を追うな」と言っています。時代の変化に取り残されるわけにはいかないけれど、その方向性が正しいのか、見極める必要があるからです。
極端な話かもしれませんが、我々は利益を出すために企業活動をしているわけではないんです。順番が逆で、社会に貢献できていれば利益は自然と付いてくるはず。自分たちの利益しか考えていないと、不正や不祥事が起こります。そんなこと、あってはならない。
もちろん、関連企業含め約1,600人の社員とその家族が不幸にならないように利益を上げなくてはならないし、我々経営陣も自分を律する必要があります。当社は同族経営などと言われる「ファミリー企業」ですが、そういう意味だけでなく、社員は家族の一員だと考えて取り組んでいます。社長室の壁には組織図が張ってあるのですが、そこに書かれた社員の名前に顔写真を付けているのも、そういった考え方からのことですね。
―(金井)宏彰社長は工学博士でもあり「技術畑」の方なので、現場からの信頼が厚いのではないですか。
宏彰社長:技術屋だった祖父(2代目社長・慶二)の願いもあり、兄が事務方、弟の私が技術畑の研鑽を積みました。信州大学の繊維学部に進んだのもそのためです。恥ずかしいので直接社員に聞いたわけではありませんけれど、私が経営陣にいることで社員の「技術的な話を分かってもらえる」という安心感につながったようです。まあ、もしかしたら、私が技術的なことが分かるからこそ困った現場もあったかもしれませんが(笑)。
■ 金井重要工業のこれから
―130年を超え、150年、200年と続くための将来ビジョンをお聞かせください。
宏彰社長:世の中には「M&Aで企業を買収することで新しいものを生み出す時間をお金で買う」という考えもありますが、ただ企業規模を大きくしていくというのは危険だと思っています。
相手の会社にも風土や文化がある。それが、当社のものと合うかどうか分からない面もあるからです。我々も企業買収をさせてもらったことはありますが、いずれも規模を大きくするための決断ではありませんでした。今後、スタートアップ企業を買収することはありえると思いますが、あくまでも自分たちの技術と掛け合わせ、世の中に本当に必要とされているものを一緒に作り出すことができる相手と手を取り合うことができればと思っています。
(材料を)トンで買って、グラム、ミクロンに落とす(商品化する)ことで価値を生む。そんな風にBtoBに徹してきた会社ですので、一般消費者の方々には「あの会社は、何を作っているんだろう?」と知られていない面もあるかもしれません。それでも、しっかりと社内で理念と価値観を共有し、ステークホルダーを尊重して思いやる。もちろん、社員が楽しく、安心して働く環境を第一に考える。そういった企業としての姿勢で社会や地域から尊敬される、無くてはならない存在であり続けたいと思います。
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